第二十一篇 終焉の光 後編
著者:shauna
「何故だ!!!」
そうシュピアは大声でシルフィリアに問う。
「私は君と戦うことになると予想した時・・・君について調べさせてもらった。そして、確信した!!!君なら仲間になるのではないかと!! 目的は違えど、この腐りきった世界を恨んで呪って生きているいるお前なら・・・きっと・・・」
それに対し、シルフィリアは彼とは逆に静かに言い返す。
「確かに・・・昔はそんな時期もありましたね・・・。」
「なら!!!」
「けれど・・・アリエス様に会って、わかったんですよ。例え、どんな世界でも・・・心の持ち方一つで、面白くも、楽しくもなると・・・。」
「くっ・・・温室育ちの剣聖などに染められたか・・・」
「勘違いしないでいただきたい・・・・彼は・・・もしかしたら、あなたや私以上に壮絶な人生を歩んでいるかもしれません・・・。少なくとも・・・彼自身から聞いた話では・・・でも、それでも彼は・・・この世界を愛し、私を光の中に連れ戻してくれた。むしろ温室で生まれ育っているのは・・・我々なのかも知れません。」
「貴様に何が分かるという!!魔力の枯れ果てた魔道士の気持ちなど!!!世界最強の魔道士である貴様に分かるものか!!!一時的にしか力を得られなかった者の気持ちなど・・・わかるはずもない!!!」
「では、あなたはその一時的に手に入れた力をどうしまたか?私利私欲におぼれ・・・そして、枯れ果てた末にあなたは何を思いましたか?『何故自分だけがこんな目に・・・自分だけが不幸なのは嫌だ。こんなに辛いのが自分だけなんて許せない。』そう思ったからこそ、あなたは”空の雪”に入ったのではないですか?いっそのこと、他人も自分と同じにしてやろう・・・そう思ったのではありませんか?」
「黙れ・・・」
「誰かの不幸を思えば・・・それだけ自分も不幸になる・・・そんな事ぐらい・・あなた程の魔道士なら分かっている筈です。」
「黙れ!!!」
「世界への復讐を望めば、望んだのと同じだけの痛手が自分に襲い掛かる。そんな事ぐらい、わかっておいででしょう?」
「黙れと言っているのが聞こえないのか!!!?」
「等価交換は錬金術の大原則にして、魔術の根底法則。そんな当たり前のことすら、あなたは見失ってしまったのですか?」
「うるさい!!!!」
聞くに堪え無くなった様子のシュピアは目を見開いてシルフィリアに斬りつける・・・。が・・・
シルフィリア自身は絶対守護領域(ミラージェ・ディスターヴァ)で身を覆ってる上に大量の魔力を防御力場として纏っている。
いかにエクスカリバーと言えど、心に揺らぎのある状態では、これを突き崩すことなどできるはずもなく、まるで厚いコンクリートを鉄パイプで叩いたが如くはじき返されてしまった。
唖然とするシュピアにシルフィリアは短くため息をつき・・・
「・・・仕方ありません。忘れてしまったのなら、思い出させましょう。まあ、最も・・・」
シルフィリアは、羽根を上手くコントロールして地面につかない様にしながら両足をゆっくりと地面につけて降り立ち・・・そして・・・
「ノ―ブル・オブリゲーションを忘れた学会魔道士など・・・最初から許すつもりなどありませんでしたが・・・」
そう言って静かにヴァレリーシルヴァンで槍術の構えを取る。
「貴様に教えられることなど!!!」
「無い!!」と発言する代わりにシュピアは走り出し、シルフィリア目掛けてエクスカリバーを振るった。
「くっ・・・」
シルフィリアもすぐにそれに対応する。瞬時に杖を左手に持ち替え、そして杖自体を強力な魔力で覆って強化し、兜割を仕掛けようとしてきたエクスカリバーの一撃を杖に中央で受けて止める。そして・・・空いている左手でピストルの形を作り・・・
『射撃(ドロゥ)』
そう心で念じると、指先に出現した光の玉が真っ直ぐに猛スピードで相手に向かって飛んで行く。さながら弾丸の如く。
間一髪シュピアは身をかわしたが、その時点でシルフィリアは後ろに回り込む。その大きな羽を全く負担とすることなく・・・まるで蜂のように俊敏に・・・
そして、シュピアが振り返った瞬間・・・
頭上からシルフィリアが槍を振り下ろす。咄嗟にシュピアは両手で剣を握り、その一撃を止めるが、すでにその時、杖の持ち手部分にシルフィリアの姿はなく・・・
再び後ろに回り込んだシルフィリアが空中で大きく足を薙ぎ、シュピアの顔面を蹴り飛ばし、その反動でシュピアは大きく飛ばされ、壁に土埃を発生させながらめり込む。そこへ再びシルフィリアが『射撃(ドロゥ)』を3発打ち込み・・・さらに土埃を発生させる。
しかし、シュピアはすぐに立ち上がり、壁を蹴って空中へと逃げ、『射撃(ドロゥ)』を回避。でも、飛びあがったその先にはシルフィリアが居て、頭上から大きく槍を振り下ろす。それをかろうじてシュピアはエクスカリバーで止め、シルフィリアの顔面にお返しと言わんばかりの強い蹴りを決める。シルフィリアはこれを手のひらサイズにまで圧縮した『絶対守護領域(ミラージェ・ディスターヴァ)』で防御したものの、流石に衝撃までは打ち消せず、後ろへ大きく飛ばされるが、その最中に再び左手をピストル型に構えて、『射撃(ドロゥ)!!』と空中で逃げ場の無いシュピア目掛けて打ち込む。空中で大きな爆発が起こり、シルフィリアは身を数回回転させ体勢を立て直し、地面に着地する。そして、再び構えを造り、地面に大きな衝撃音と土煙を上げつつ軽く唸る程度のダメージしか受けていないシュピアが立ち上がった所を見計らって・・・
バチバチと左手に雷に変化させた魔力を溜め、環状の魔法陣をまるで標準機の如く、2つ造り出し、
『雷の・・・(ライトニング・・・)』
その中央に魔力を溜めた手をかざして・・・
『咆哮(カリドゥス)!!』
唱えると同時にまるで、戦艦の主砲なのではないかという程に強力な雷砲の一撃が放たれる。それに対し、シュピアはエクスカリバーに魔力を溜めて、『雷の咆哮(ライトニング・カリドゥス)』の当たる直前に振りおろし、威力を相殺させた。
互いに一歩も譲らない・・・しかし、ある程度はシルフィリアが有利な状況。だが、そんなシルフィリアにしても一つだけこの戦いには難点があった。それは・・・
シュピアがいくら攻撃を受けても全く痛がっている様子が無いのだ。おそらく、エクスカリバーがシュピアの脳を支配し、体に電気信号で指令を伝えると同時にエンドルフィンを過剰に分泌しているせいだろう。
このままだと、彼を止める為には殺す以外の手が無くなる。
出来れば生かして捕えたいと言うのに・・・
「仕方ありませんね・・・」
小さな溜息と共に、シルフィリアはそう呟く。
「ん?何が仕方ないというんだ?」
もはや少しトランス状態になりつつあるシュピア。
「確かに、現状ではエクスカリバーを以ってしても、君の方が僅かに勝っている。しかし、このまま戦いを続ければ、君が勝つのは明白だが・・・果たして何日掛かることやら・・・。」
確かに彼の言う通り・・・自分がこのまま精一杯手加減を続けて戦闘が長引けば、シュピアの体力が尽きるのを待つしかない。しかし、エクスカリバーが体力を増幅している今、おそらく3日以上は覚悟しなければならないだろう。そうなると、ファルカス達や聖堂内のアリエス達の体力が持つはずもない。何しろ、現状で魔族はインフィニットオルガンの自動演奏と水の証の魔力吸収能力、そして、オボロやハクの魔力まで吸っている為、無限に召喚されるはず・・・。
それに一番重要なのは制限時間・・・『秤等す夢幻の理想郷(アガルタ・ル・アーカーシャ)』にも制限時間が存在する。その制限時間がかなり残り少ない。
持ってあと3分。このままじゃ・・・やっぱり殺すしか・・・
「さて、どうする?幻影の白孔雀・・・簡単なことだ・・・私を殺せばいい・・・。」
確かにシュピアの言う通り、そういう選択肢もある。だが、冷静に考えてみると、彼がインフィニットオルガンをコントロールしている以上、下手に彼を殺せば、鍵となって捕えられているオボロやハクの命も危うい・・・。
仕方ない・・・。やっぱり、あれしかないか・・・
「仕方・・・ありませんね。」
小さく囁いたその言葉にシュピアが反応する。
「ん?どうしたんだい?やっと戦う気になったのかな?」
「そうですね・・・」
「だが、君の勝利はまだ遠い。先程君はこう言った。制限時間は三十分だと・・・そして、あともう数分でその30分だ。そうすれば、君はまた1/25の魔力に逆戻り・・・そうすれば、また、聖杯の最後の願いで貴様を・・・今度は魔法すら使えない体してやろう・・・さて・・・どうする?このまま滅びゆくを良しとするか・・・だが、先程から何度も言うように、私はお前と聖蒼貴族が欲しい。故に、貴様がもし我が元に降るというのであれば、貴様だけは助けてやってもいい。どうする・・・シルフィリア・・・」
そんな質問に対し、シルフィリアは・・・
「残念ながら・・・私の勝ちです。」
そう静かに呟く。
「何?」
「元々・・・あの力だけであなたを倒せるとは思っていませんでした。あなたを倒すには私はあまりにも優しくなり過ぎた・・・。人を簡単に傷つけることすらできない様になってしまった。だから、私は・・・今一度、非情になりましょう。全てを破壊し、悲しみを原動力に動く最強の魔道士となりましょう。」
「貴様・・・何を言って・・・」
「この場での勝利など元々要りませんでした。私が欲しかったのは・・・」
そう言って、シルフィリアが静かに手を翳す。
すると
「これです。」
翳した手の上に青い炎が燃え上がり、やがてその炎は眩い光に変化する。
誰もが目を覆う程の光の中・・・彼女の手の上に出現したのは・・・
「馬鹿な・・・」
シュピアの顔が驚きと絶望に満ちた。
バカな・・・あれは確か自分の手に・・・
「コレも物である以上・・・盗むことはできるんですよ・・・」
シルフィリアのそんな絶望の言葉が脳内に響き渡る。
それは、杯だった。
黄金と瑠璃とで装飾され、神々しく眩い光に包まれたこの世のものとは思えない程美しい杯。
“聖杯”
「馬鹿な!!!いつの間に!!!」
そこまで言ってシュピアはハッと気が付く。
「まさか!!!あの時か・・・」
シュピアの言うあの時・・・そう、それは・・・先程の戦闘の際・・・自分とシルフィリアが何度も肉迫したその瞬間・・・
「なるほど・・・つまりはその為の布石・・・」
悔しそうな顔をするシュピア・・・だが・・・
「それがどうした!!!聖杯にはいくつもの欠点がある。直接人を殺せず、人の精神を操ることも出来ず、人を蘇らせることも出来ない。それだけじゃない。貴様の態度から察するにおそらく、先に叶えられた願いは打ち消すことも出来ないのだろう?・・・つまりは、エクスカリバーを消すことも、私を殺すことも不可能・・・そうなれば、たとえ、私の全魔力を打ち消したとしても、貴様が勝つのは不可能だ!!」
ついでに言うと、エクスカリバーが彼の手にある以上、捕縛するのも無理だったりする。
何故なら、あの聖剣にはそう言ったいわゆる捕縛結界というモノを無効化する能力もある。だからこそ、捕縛が難しかったわけだが・・・。
「それがどうかしましたか・・・。」
シルフィリアは何食わぬ顔で・・・いや、余裕すら見せながらそう言い返す。
「私が願うのはただ一つ・・・」
『聖杯よ・・・我が袖の内にあるモノの使用権を今一度我にも与えよ・・・。』
そう言った途端に聖杯から青い炎が立ち昇る。
これは、願いが聞き入れられた証拠。
ややあって、聖杯の中から立ち上る煙が消えると、今度は聖杯自体が巨大な青い炎に包まれた。
「何だ!!!?」
慌てるファルカスにシルフィリアが微笑む。
「心配要りません。願いを3つ叶えた聖杯は理想郷へと帰る。ただそれだけです。」
その言葉通り、炎が消えると聖杯は跡形もなく無くなっていた。
「フッ・・・フハハハハハッハハ!!!これは傑作だな・・・。何を願うかと思えば、道具を使えるようにしてくれだぁ!?せっかくの願いを無駄にするとは・・・。君には失望したよシルフィリア・・・。」
その言葉には傍から見ていたサーラやロビンも同意する。
たかが道具を使えるようにしてくれだなんて、そんなの・・・
かといってあの状況下でシュピアの言葉を丸のみにするとするなら、何を願えば良かったのかなんてわからないけれど、それでも、あんな願いじゃ・・・シュピアは倒せないんじゃ・・・。
しかし・・・それでもシルフィリアは笑顔のままだった。
「確かに・・・そこいらの道具ではあなたの足もとにも及ばないでしょう。」
そして、緩やかに指定された道具の眠る袖に手を入れる。
「しかし・・・もし、それが・・・コレだとしたらいかがですか・・・。」
取り出された道具を見て、その場にいるアリエス以外の全員が驚くでもなく落胆するでもなく、一言で言うならキョトンとした表情になる。
というのも、それは金色の懐中時計だった。
それがスペリオルなのか・・・それともまた別の何かなのか・・・それすら分からない。
あれでどうするつもりなのか・・・そんな感想を持つ者が殆どだったのだ。
「『忘れられた時の時計(ザイス・クラーグ)』・・・」
シルフィリアがその宝具の名を口にする。
「聖杯がフェルトマリア家のそれであるように・・・本来ならば、フィンハオラン家の人間にのみ使用できる伝説の宝具です。」
ってことは・・・
全員の視線がアリエスに集まる。
「アリエスさん。」「あれって・・・一体・・・」「どういう宝具なんですか!!?」
口々に言葉を紡ぐサーラ達にアリエスは笑って答える。
「そうだな・・・時間の支配者になれる時計とでも言うのかな・・・」
「時間の支配者だと!!?」
その言葉にシュピアの顔が急に引き攣る。
「そう・・・あの時計は使用者の寿命と引き換えに指定した物体の時間を戻すことが出来る伝説の宝具だ・・・」
「そんな馬鹿な・・・時間を操るなんて・・・」
それだけはいかなる魔術でも出来ないはず・・・時間がなぜあるのかという原理の分からぬ以上、それはできないはず・・・なのに・・・
「そんなこと出来るはずが!!!」
「お前、馬鹿か・・・だから、伝説の宝具なんだろ・・・。」
シュピアの必死の訴えにもアリエスは静かにそう返した。
「アリエス様。」
掛けられた言葉にアリエスは慌ててシルフィリアの方を向く。
「後はよろしくお願いしますね。」
その言葉にアリエスが笑って頷く。
「頼むよ。シルフィー。」
「こちらこそ・・・」
シルフィリアが静かに『忘れられた時の時計(ザイス・クラーグ)』を構える。
『“忘れられた時の時計(ザイス・クラ−グ)”よ・・・我が体から、4年の時を吸いだせ・・・』
そう唱えた瞬間・・・シルフィリア自身の体が眩く光を放った。
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